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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和24年(つ)440号 判決 1950年11月17日

被告人

藤山文博

主文

原判決を破棄する。

本件を鹿児島地方裁判所鹿屋支部に差し戻す。

理由

職権により本件記録を調査すれば、起訴状記載の公訴事実には、被告人は、油糧取扱業者としての指定を受け、囎唹郡市成村市成一、一二七番地の一に工場を有する指定油脂製造業者であるが、法定の除外事由のないのに、営利の目的をもつて、昭和二三年度は右工場で集買した菜種子一七四俵一七斤を搾取したところ、その製造した菜種子油のうち鹿児島油糧配給公団から七石七斗五升の出荷指図を受けたのにかかわらず、これを同公団に出荷せず、同年七月上旬頃、八月中旬頃及び九月上旬頃の三回に亘り、油糧配給公団でない門司市吉野町一、四三一番地松村十助に対し、菜種子油七石七斗(一、二七〇瓩五〇〇瓦)を物価庁告示指定の製造業者販売価格の統制額から金一五四、八三三円を超過した代金二四五、〇〇〇円で譲渡したものである。とあるから、結局起訴状に訴因として記載されている事実の要旨は、菜種子油七石七斗を統制機関に譲渡しないで、統制機関以外の者に指定統制額を超えて譲渡した。ということに帰着するものと認められるので、右事実が現実的に審判の対象となつている筋合である。しかるに原判決はいささか明確をかくきらいがあつて、そのため次のような疑いを抱かざるを得ないのである。すなわち、若し、原判示第一掲記の事実が、菜種子油九石二斗四升九合一勺を統制機関に譲渡せず、そのうち七石七斗を原判示第二の(一)乃至(三)掲記のように統制機関以外のものに譲渡したものと認定した趣旨とすれば原判示第一掲記の事実については、現実的な審判の対象となつている七石七斗の範囲をいちゞるしく拡張することになり、かかる多くの数量の拡張は、被告人の防禦に実質的不利益をきたすことになると認められるので、かような場合は公訴事実の同一性を害しない限り、少くとも訴因の追加または変更の手続があつて、はじめて原判示のとおりの認定ができるものといわざるを得ない。しかし、原審においては、右認定の趣旨に副うような訴因の追加または変更の手続がとられた形跡のみるべきものは何等存在しないところである。さすれば、公訴事実にある七石七斗を超過する数量の菜種子油の譲渡については、現実的に審判の対象となつていないものとみるのが相当であると解する。つぎに、原判決が、原判示第二の(一)乃至(三)において認定している事実によれば、被告人は、菜種子油七石七斗のうち、(一)二石二斗は昭和二三年七月上旬頃、(二)三石三斗は同年八月中旬頃、(三)二石二斗は同年九月上旬頃、いずれも統制機関でない松村十助に対し、その指定された統制額を超え譲渡したとあるから、右認定の事実とそれに対する法令の適用とを比照してみれば、原判決は右七石七斗の菜種子油以外に原判示第一掲記の九石二斗四升一勺おも統制機関に譲渡しなかつたものと認定している趣旨のようにも受けとれるところである。若し右のような趣旨の認定とすれば、原判示第一掲記の九石二斗四升九合一勺を統制機関に譲渡しなかつたとする事実の認定は、訴因の記載に包含されない事実を認定したことに帰することになり、その不法であること多言を用いないところである。さすれば、原判決は以上のいずれに認定したものか措辞よろしきを得ず不明確であるところそのいずれの点よりみても、原判決は結局前説示のように審判の請求を受けない事件について、判決をした不法があることに帰着するので、到底破棄を免れない。

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